ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ

「どうやら病人は君の方だったようだ。寝ろ」

何を言い出すのだこの人は？
上から覗き込むように私を見下ろす副社長がニヤリと笑う。

「イヤイヤ、私はもうすっかり元気です」

慌ててバタバタと両手両足を動かすが、すぐに封じられてしまう。

「馬鹿か！　過労が速効で治るはずがないだろう」

いや、でも、元気だし……。

「まして子供がいるんだろ？」

「はぁ」と気の抜けた返事をする私に、「過労は睡眠不足によるものだ」と勝手な断定をされる。

「これ以上、四の五の言うのなら、このまま抱き締めて一緒に寝るぞ」

嘘でしょう、と目と鼻の先の副社長をジッと見る。
整った顔だ……。

いやいや違う、そうではない！
これは脅しか？　脅しなのか！　顔が真剣だから本気みたいだが……。

「奈々美、僕の言葉は絶対だったな！」

険しい言葉とは裏腹に、彼の手が優しく私の瞼を押さえる。

「だから、寝ろ！」

しかし、『寝ろ』と言われてもこんな時間に寝れるわけが……と思っていたのに……。



うわぁぁぁ！　信じられない、自分を殴ってやりたい！

「やっぱり、相当疲れていたんだな。お前、ベッドのど真ん中で大の字になってイビキをかいていたぞ」

お昼過ぎに目覚めた私に、副社長が呆れるように言った。
もうお嫁に行けない！　悶絶する私など気にも止めず副社長がニッと笑う。

「顔色がだいぶん良くなった。あっ、お前の弁当、旨かったぞ」

お口に合って何よりだが……イビキ……立ち直れない。

「で、お前の昼だが、出前を頼んでおいてやった」

「ほら見ろ」というように視線をローテーブルに向けたので、私も見る。

何だあれ！　アングリと口を開け、見つめる先にはズラリと並んだ豪勢な料理たち。