ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
「はいはい、分かった。戻ります。奈々美ちゃん、じゃあまたね」

剣持さんのあの氷点下の眼にも怯まず、社長はニコニコと笑いながら軽く手を振り社長室に消えた。

「副社長もです! まずは車椅子にお座り下さい」
「このままでいいのに」

ブツブツと文句を言いながらも副社長が車椅子に腰を下ろすと、剣持さんが早々に押し、部屋に入る。

ようやく肩を解放されたが……家政婦はこの後どうすればいいのだろう?
ポケッとその場に佇んでいると「奈々美、来い!」と呼ばれる。

その声に弾かれ慌てて二人の後に続き副社長室に入ると、例の五人が各々のデスクを前に仕事に取りかかっていた。

剣持さんがその奥にあるドアを開ける。

「山本さんもどうぞ」

途端に五人の秘書補佐が顔を上げ私を睨む。
中でも葵嬢の顔は般若のようだ。

もう、勘弁してよ……全く!

でも……彼女、分かっているのだろうか?
副社長に好かれたいのなら可愛くならなきゃ。

美人というカテゴリーに胡座をかいているのなら考え直した方がいい。

まぁ、私がそんなことを口に出したら、きっと『貴女何様!』とドギツイしっぺ返しがあるだろうから何も言わないけど……と思いながらコソコソと副社長の部屋に入った。
< 45 / 190 >

この作品をシェア

pagetop