ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
敷居を跨げば七人の敵あり
『男は敷居を跨げば七人の敵あり』ということわざがある。

辞書によると、男が一旦敷居を跨ぎ外に出れば、多くの敵や競争相手が待ち構えていて、たくさんの苦労があるという意味だそうだ。

しかし「それは男ばかりじゃない!」と私は声を大にして言いたい。

七人ではないが、例の秘書補佐五人に加えて、私を敵視する人……この人もそうだった。

「貴女、私を裏切ったわね!」

ドン! 音を立てて簡易トイレにドアドンするのは……現場で一緒だった三上美和さんだ。




なぜこのような事態になったのか? それは……遡ること一時間ほど前だった。

先日の視察が中途半端に終わったということで、副社長が突然『今日行く』と言い出したのだ。

『松葉杖で現場は無理です』と反対する剣持さんの言葉にも耳を貸さず、副社長は『車を出せ!』と命令した。

当初、新社屋の工期は六ヶ月。スケジュールでは八月下旬には完成予定だった。だが、五月の長雨で作業が大幅に遅れ、工期がずれ込んでいるとのことだ。それがどうにも気に食わないらしい。

だが、気に食わなくても遅れているのは事実だ。焦ったところで遅れを取り戻せる訳でもないのにと思っていると……。

剣持さんが『まぁ、拓也様の登場は現場の者に気概を与えるので結構なことですけどね』と折れる。

確かに彼の言う通りだ。あの日も『副社長が来る』と聞いただけで現場の動きが数倍速くなった。
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