ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
副社長が剣持さんに無理を言ったに違いない。訝しげに副社長を見ると目を逸らされたから絶対あれはそうだ。

「奈々美にこっちの足も踏まれて痛い痛いだ。瑞樹、たぁ君をナデナデしておくれ」

副社長がギブスのない足を指す。

瑞樹を伴いマンションに戻ると、副社長は早々に瑞樹に甘える。瑞樹は素直な良い子だからよしよしとそこを小さな手で撫でる。

「はぁぁぁ、天使だぁ、癒やされるぅぅぅ」

ソファーに体を横たえた副社長が瑞樹を抱き締め萌える。
美和を睨んでいた人と同一人物とは到底思えない。

「瑞樹、副社……拓也さんに優しくしなくていいよ。仕事をサボったんだよ」
「奈々美、君は僕の名前をいつつっかえずに言えるんだい?」

間髪入れず誤魔化すように言葉を挟む副社長にフンと鼻を鳴らす。

「それに、僕はサボってはいない。休養だ。無理をして大切な体に後遺症を残さないためにね」

ドキッとした。確かに! 副社長はあの大会社を背負って立つ身だ。兄がそうであるように、その身に何かあったらそこで働く人は勿論、関係する全ての人が路頭に迷うことにもなりかねない。

「――本当にすみませんでした」

改めて謝罪をすると、「へぇ、不気味に素直だね」と瑞樹の頭を撫でながら副社長がニヤリと笑う。

「すまないと思っているのなら、この先も恩返しし続けるんだね」

この先とは完治するまでということだろうと自己解釈をして、早速に恩返しの一環である夕飯作りに取りかかった。
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