ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
そんな風に思いながらも副社長と過ごす日々は、意外にも平和だった。

確かに瑞樹との二人暮らしも平和な日々だったが、でも、やはり一人で子供を育てるのは大変だった。子育て世代には多くの協力があった方がいいに決まっている。

そう考えると、瑞樹に淋しい思いをさせてきたのかもとちょっと反省する。
だって、気のせいじゃないと思うからだ。瑞樹の笑顔が増えたような気がするは……。

瑞樹に対する副社長の愛情は肉親のものではない。赤の他人だから無責任な愛情を極端に与えられるのだと思う。

ついこの間までは、それが無性に腹立たしかった。でも、瑞樹の笑顔を見るにつれ、一概に悪いことでもないように思えてきた。

言うなれば、祖父祖母叔父叔母感覚なのではないだろうか、と思えるようになったのだ。

子供はたくさんの愛情に包まれて育った方がいいに決まっている。副社長の甘々な愛情も、瑞樹を包む一部だと考えたら許容の範囲内だ。

――瑞樹が幸せならそれでいい。

「お前、この近頃あんまり目くじらを立てなくなったな」
「そうですかぁ」

惚けた顔で誤魔化すが確かに自覚はある。
こんな風に思えるようになったのは、心に余裕が生まれたからだろう……と。

「瑞樹もだが、お前も笑った顔は超絶に可愛いんだから、もっと笑え」

つくづく思うが……副社長の『可愛い』を追求する姿勢は半端なく真っ直ぐだ。

「ヘラヘラ笑ってばかりいたらバカな子みたいじゃないですか」

でも……私はまだ素直になれない。
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