ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
副社長のご機嫌な顔を見ながら、瑞樹と一緒にもう一度日本語を学んだ方がいいですよ、と心の中で呟いた。

***

そんなある日。

「――夕方から休みが欲しい?」
「はい。今週の金曜日ですが、保育園で夕涼み会がありまして」
「それに行きたいと言うのだな」

「はい」と返事をすると「ダメだ!」と間髪を入れず拒否の言葉が返ってくる。

「そんなぁ、瑞樹も楽しみにしているんです。お願いします」
「ダメだ。お前は二十四時間、僕の世話をすると約束した」

何て横暴な! この間、子供の笑顔云々と言ったばかりじゃないかと罵詈雑言を心の中で浴びせていると、「だから、僕も行く」と幻聴のような言葉が聞こえた。

耳に指を入れ、ホジホジとしてから「今、何か仰いました?」と訊ねると、「君はバカの上、難聴なのか?」と呆れ眼を向けられる。

「僕も行くと言ったんだ」

今度はハッキリと聞こえた。

「――まさか、保育園の行事に参加するんですか?」
「不参加など有り得ない!」

胸を張り断言する副社長を呆気に取られながら見つめる。

そりゃあ、保育園の送迎は一緒にしているが……でも、副社長が車から降りたことはない。

「副社……拓也さん。止めておいた方がいいと思います」

キッパリと言う。
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