ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
「なぜだ!」
「目立ちすぎるからです」

ハテナという顔で副社長が訊ねる。

「目立つのは重々承知しているが不都合でもあるのか?」

自覚しているんだと妙な納得をする。

「保育園の行事です。子供が主体です。でも……副社長が来たら」

「なるほど」としたり顔で副社長が頷く。

「僕が主役になってしまうということだな」
「そうです。きっとパニックが起きます」
「なら、お前のように変装すればいい話だ」

いやいやいや。ちょっとやそっとの変装で、そのイケメンは誤魔化しきれない。

だが、副社長はニヤリと笑い、「ちょっと待っていろ」と車椅子で自室に向かった。

何をするのだろう? 不思議に思いながらもブロック遊びに興じていた瑞樹に付き合い始めていたら、「これでどうだ」と見知らぬ男性がリビングに入って来た。

「――もしかしたら副社長?」
「もしかしなくても僕だ」

ボサボサの髪に瓶底みたいな丸い眼鏡。おまけに……何その出っ歯!

「前に余興で使った小道具だ」

どこの余興だと言うんだ? 完璧じゃないか!

「うっうっ」と瑞樹の小さな嗚咽が聞こえ、「どうしたの?」と訊いた途端、うわぁぁぁと泣き出した。

「みっ瑞樹、たぁ君だよ」

おろおろと副社長が宥めるが、瑞樹は「いや!」と泣き止まない。
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