ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
「副社長……やっぱり保育園に行くことは諦めて下さい」
「どうしてだ! 上手に変装しただろ?」

ヒックヒックと嗚咽を漏らす瑞樹の背中を撫でながら、「肝試しじゃなく納涼祭なので」と言うと、副社長はガックリ肩を落とす。

自分でも何となくヤバい奴の自覚があったようだ。

「とにかく、速攻で元に戻って下さい。これでは瑞樹が夜泣きします」

私たちが言い合う間も瑞樹は「たぁ君、たぁ君」と彼を呼び続ける。

「瑞樹……」
「ほら、瑞樹が副社長に助けを求めていますよ」

「待っていろ瑞樹!」と言うが早いか副社長は猛スピードで車椅子を操作する。その姿はさながらヒーローに変身する前の主人公のようだ。

やれやれと思いながら膝の上の瑞樹を見下ろす。
ん? 顔が赤い? 泣きすぎで? 違う。息も荒いし身体中が熱い。

慌てて体温計で熱を測る。三十八度二分。
ついこの間、回復したばかりなのに……。

そう言えば、以前、『保育の手引き』なるものを貰った。

そこに、一歳頃までは母体から受け継いだ免疫なるものがあり病気になりにくいが、免疫が切れた一歳過ぎから次から次へと病気になる……みたいなことが書かれていた。

でも、これも成長の一過程だそうだ。そうやって自己免疫を養っていくのだそうだ。
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