ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
「潜伏期間というのがあり、知らず知らずに移してしまうのです。瑞樹だって誰かに移しているかもしれません。お互い様です」

「うむ」と険しい顔をしながらも取り敢えず納得したようだが、「なら、保育園を辞めさせてシッターを雇う」と言い出した。

「何をお馬鹿なことを言ってるんですか!」

ここにいるのは副社長が完治するまでだ。今、保育園辞めてしまったら以前と同じ苦難の堂々巡りが待っている。そんなのはごめんだ!

「何が馬鹿なことだ。瑞樹の生死に関わることだぞ!」

真顔で言う副社長があまりに可笑しくて、場違いにもぶっと吹き出した。

「滅多なことでは死にませんよ」
「そんなの分からないじゃないか」

ムスッとむくれる副社長に、「それにですね」と言い聞かせる。

「自己免疫を付けてやるのも親の務めです。そりゃ、子供が苦しむ姿は見たくないですよ。でも、心を鬼にしてでも生きる力を育ててあげなきゃです」

「――そんなものなのか?」

それでもやっぱり納得できないように副社長が訊ねる。

「そんなものです。副社長のご両親だってそうだったと思いますよ」

「うちは……」と言ったきり副社長が無言になる。何か悪いことを言ったのだろうか?
< 60 / 190 >

この作品をシェア

pagetop