ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
それから数日、瑞樹はぐずりっぱなしだった。

小さな身体でウイルスと格闘しているのだから仕方がないとは思うのだが、看ているこちらも辛い。

「奈々美、顔色が悪いぞ。瑞樹は僕が看るから、ちょっと休め」

会社から戻ると副社長は「おいで」と瑞樹に向かって両手を広げる。

瑞樹もか細い女性の膝よりもガッシリと余裕のある男性の方が安心するのか、躊躇いもせずに副社長の腕に飛び込む。

真の保護者としてはちょっと焼けるが……。

「副社長、ありがとうございます。父親の温かさを知らない瑞樹に、例え似非であっても父親みたいに優しくして下さって」

彼の腕の中でスヤスヤと眠る瑞樹の顔を覗き込みながらお礼を言うと、副社長がムッとした顔で私の頭に手を置く。

「ちょっと重いです。退けて下さい」

顔を上げると意外にも近い距離に副社長の顔があった。
本当にハッとするほどのイケメンだ。

「僕は父親みたいじゃなくて、父親として瑞樹に接している」
「それって、子育ての練習をしているとか? あっ! ご結婚とか?」

「はーぁ?」と副社長がどんぐり眼になる。かなりレアな顔だ。

「誰と結婚するんだ?」
「さぁ?」

副社長の手を頭に置いたまま首を捻ると、副社長がクイッと元に戻して「なら……」と言いながらニヤリと笑う。
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