ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
私の瞳を覗き込む副社長の眼は蠱惑の輝きを放っていた。あまりにも魅惑的な光に胸の奥がズンと震える。

視線を外せないまま、見つめ合う形で副社長が唐突に言う。

「――なら、お前が嫁になれ」

グッドアイディアとばかりにほくそ笑む顔は、悪戯を仕掛けた子供のように嬉々としている。

「どうしてもっと早く思い付かなかったんだろう。これなら瑞樹も僕のものだ」

この時初めて「おいっ!」と突っ込んだ。

「瑞樹が欲しいがために私と結婚? 冗談じゃない!」
「そうだ、冗談ではない。本気だ」

本気なら尚更だ。怒りが沸点まで上昇する。

「子供が欲しければ、どこかの誰かと作ればいいじゃないですか! 私たちを巻き込まないで下さい」
「何を怒っているんだ?」

副社長がのほほんと質問する。

「何をって、結婚ですよ!」
「僕と君の結婚に問題でも?」
「大ありです! 瑞樹が欲しいがために結婚するって正気の沙汰とは思えません」

「ああ」と副社長は『理解した!』とばかりにポンと手を打つ。

「お前は誤解している。僕は瑞樹『も』と言ったんだ。当然、君もだ!」
「益々意味が分かりません」

副社長と話しているといつもこうだ。本当は彼はどこか違う星の住人ではないだろうか?
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