ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
「しかし、悔しい」

何が悔しいと言うのだろう。悔しいのはこちらの方だ。

「瑞樹と経験済みだったとは」

ああ、と心の中の悪魔がせせら嗤う。それを言うなら……。

「幼い頃に父にも兄にもされましたよ」

ふふん、どうだ!

「お前……」

声を押し殺して副社長が笑い始める。瑞樹を起こさないためだろう。

「何を威張っているんだ?」

「腹が痛い」と涙を流し引き攣り笑いを続ける。
どこに笑いのポイントがあったのだろう? 全く理解できない。

「本当、可愛い奴だな。奈々美、最高だ!」

これ以上何を言っても無駄な抵抗だと感じて、「瑞樹をベッドに寝かせます」と冷静に告げる。

涙を拭いながら「そうだな、僕が連れて行く」と言って、副社長が車椅子を操作する。もう私がいなくても十分やっていけそうなほど巧みな操作だ。

「とにかく」副社長が肩越しに振り向く。

「嫁にする話は本気だから、これから覚悟をしておけ」

捨て台詞のような言葉を残して、リビングを出て行く副社長の背中を呆気に取られ見送る。

――覚悟とは? 我に返り思う。もしかしたら、『敷居を跨げば七人の敵あり!』じゃなくて『最大の敵は内にあり』じゃないだろうか?
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