ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
――噂は千里を駆けるというが……。

副社長室を一歩出た途端、刺すような視線に気付く。
特に秘書補佐五人の前を通るとき。視線で殺されそうだ。

でも、剣持さんがいるから誰も何も言わない。
だから油断していた。

「奈々美、美味しかった。ご馳走様。トイレか? 僕も行く」

持参したお弁当を食べ終わると、このところ毎度この台詞が飛んでくる。

「副社長にはデリカシーという言葉が欠けています」

そして、私は毎度こう言い返す。

「僕も人間だ。生理現象には逆らえない。食後にトイレに行きたくなるのは当然のことだろう? そして、僕は君のせいで足にこんなものを着けている」

わざわざギプスの足を持ち上げて見せる。
これも毎度のことだ。

「だから一人でではトイレに行けない。君が行くときに行く。合理的だろう?」
「合理的とかそういう問題じゃなくて……」

男女が揃ってトイレって、メチャクチャ恥ずかしいじゃないか!
それが分からない副社長は大馬鹿だ!

「だったら剣持さんとご一緒に行かれたらどうですか?」
「お前は剣持と連れションしてこいと言っているのか!」
「副社長、下品ですよ」

大会社の副社長らしからぬ言葉だ。
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