ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
「お前の前でカッコ付ける必要があるのか?」

そんな疑問を投げかけれても……何と答えればいいのか分からない。

「ほら、即答できないということは、そんなの必要ないということだ」

胸を張って威張る副社長に、溜息しか出ない。

「さぁ、行くぞ」

顎を上げて車椅子を押せと合図する。
仕方なしにご希望通りにしてあげる。

「出てくるまで帰るな」

そう言って副社長は男子トイレに消える。
「男子トイレまで一緒に来い」と言われないだけマシだと思い、私も化粧室に入る。

個室から出て手を洗っていると、「山本さん」と声がかけられる。鏡越しに秘書補佐五人の姿が目に映る。

揃いも揃ってその顔は鬼のようだ。

前回もだったが、毎度毎度トイレで苛め? ティーンエイジャーか!
溜息も出ない。

「どういうこと?」

口火を切ったのは葵だ。

「どういうこととはどういうことでしょうか?」

惚けたが分かっている。副社長との噂のことだろう。

「馬鹿にしているの?」
「そうよ、結婚の話よ!」

案の定だった。
そう言えば彼女たち五人は花嫁候補だった。

「おまけに剣持様まで誑かして、貴女、何様なの!」

真っ赤なルージュを引いた……この子は確かこの中で一番年下の……茜だ。彼女が怒りに任せて地団駄を踏む。
< 73 / 190 >

この作品をシェア

pagetop