ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
「秘書補佐五人がいなくて、私は助かっています」

そこに助け船を出すように剣持さんが先程の質問に答える。

「助かる?」
「ええ、彼女たちの尻拭いをしなくてよくなりましたから」

ああ、と彼女たちの悪行を思い出し、なるほどと意味を理解する。

「それで、補佐はもう必要ないのですか?」

「そうですねぇ」と剣持さんがニヤリと笑う。

「山本さんがこの先も副社長の生活全般の面倒を見て下されば、私としては大助かりなんですが。それが一番私を手こずらせますから」

それはご辞退致しますと心の中で大いに拒絶するが、表面面はいい子ちゃんぶって「私なんかに務まりません」と謙遜する。だが、副社長は何がお気に召さないのか、急に眉尻を上げ怒り出した。

「お前、自分を貶めてどうする! 公の席でならいざ知らず、日本人は心にもない謙った言い方をよくするが、あれには反吐が出る」

副社長も日本人でしょう? それに、日本人は往々にして謙虚を美徳としているものなのよ、と心の中で反論するが、副社長の口は止まらない。

「出る杭は打たれると言うが、出すぎた杭を避ける傾向にあるのも日本人だ。言うならば長いものには巻かれよ精神だ。そんな内股膏薬のような人間は好かない!」

哲学的? そんな話になってきた。

「好かないが、それより僕は自分を卑下する人間がもっと嫌いだ。とにかくだ、『私なんか』と言うんじゃない! 誰と比べて自分を卑下しているんだ」
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