俺様外科医の極甘プロポーズ
手を付けることのなかった料理たちに後ろ髪をひかれながら、私は店を出た。イルミネーションで光り輝く大通りをひとり寂しく歩く。
すれ違う人がみんなカップルばかりなのは今日という日が特別な日だからだろう。私にとってもそうだった。特別な日になるはずだった。大好きな人と過ごす初めてのクリスマス。
先生を責めるつもりはない。きっと何か事情があるはずだ。先生に限って、こんな約束の破り方をするはずがない。
「少し飲んで帰ろう」
またお酒に逃げるのかともう一人の自分がせせら笑っていたけれど、今の私にはしらふで帰宅するなんてことはできそうにない。
たまたま目に付いたスパニッシュバルに入ると、運よく席が空いていた。カウンターの片隅で、返信のない携帯電話を見つめながら私はビールを飲み干す。ディナーのために昼食を抜いていたせいか、今日は酔うのが早い。
終電間際になって、私は重い腰を上げた。千鳥足で駅へと向かう。
「やだ、もう。壱也ったら」
その声に私は振り返った。女性の呼ぶ男性が、先生のはずがないと思った。けれど、数メートル先の路上で女性の肩を抱いているのは間違いなく壱也先生だ。女性型がタクシーを止め、二人が乗り込むとゆっくりと走り出す。
「嘘だよね」
酔いがさめるのがわかった。私との約束を破って、別の女性とデートしていたなんて。こんなことがあるのだろうか。
「きっと何か理由があるんだよね」
とにかく家に帰ろう。かえって先生から話を聞こう。さすがにマンションには帰ってくるだろう。そう思った。