俺様外科医の極甘プロポーズ
後頭部を鈍器で殴られたような衝撃だった。
先生に婚約者がいたなんて、信じられない。
でも、思い返してみれば先生は私のことを好きだと言ってくれたけれど、付き合おうとは言わなかったし私も確かめたりはしなかった。
だって、先生との関係は恋人同士そのものだったから。
だからクリスマスも……ああ、そうか。だから先生は早めのクリスマスプレゼントをくれたんだ。
そして当日はこの人と過ごすと決めていた。
だったら私との約束は断ってくれたらよかったのに。その方がよかった。そうしたらいつものようにひとりのクリスマスを満喫できただろうし、こんな惨めな気持ちにならなくて済んだんだ。
「ここだけの話、昨日飲みすぎちゃって寝坊したの。壱也は家にスーツを取りに行ってるんだけど、私には病院に忘れ物を取りに行けっていうのよ。意外と人使いが荒いのよ彼。そんなことより、私急いでるんだけど。ねえ、聞いてる? 身分証明書が必要ならこれでどうかしら」
その人はカバンから顔写真付きの職員証を取り出すと私の目の前に掲げた。
「……T大医学部助教・大手万由里」
「そうよ。医者なの。見えないでしょ? でももしかしたら私もこの病院にお世話になることがあるかもしれないから、その時はよろしくね!」
いいながら大手さんは私の右手を握った。
「それで、どこ?」
私は左手で階段を指す。
「あの階段を昇ればいいのね。ありがとう」
大手さんは片目をつむると、高いヒールの靴で階段を駆け上がっていく。
そんな彼女の背中を見つめながら、私は膝から崩れ落ちる。
先生に婚約者がいたという事実が私に重くのしかかって、しばらくの間立ち上がることができなかった。