俺様外科医の極甘プロポーズ
大学病院時代の私はそうやって成長してきた。は頑張りすぎてつぶれたけど……でも、田口さんのことはつぶさない。
「そうはいっても私と先輩じゃ、出来が違うんです」
「そんなふうに自分を卑下しちゃダメ! 大丈夫、田口さんならできるよ」
「……できません」
「ねえ田口さん。ここで辞めたら壱也先生の思うつぼだよ。それでもいいの?」
田口さんが辞表を出しても、病院も壱也先生も痛くもかゆくもない。むしろ、人員を入れ替えるチャンスと思うだろう。そんなことはさせない。
「田口さんはやればできる子なんだよ。病院側が手放したくないと思えるような看護師の私が育てる!」
「……先輩がそこまで言うなら、辞めないでがんばります!」
彼女はここにとどまってくれるらしい。そんな彼女を全力でサポートしてあげたい。
正しい知識を持つことは、看護師の義務だ。私も新人の頃は、どうしてこんなに覚えることが多いのだろうとくじけそうになった時期があった。誰かに聞けばいいやと自ら知ることを止めた私に、「明日から仕事にくるな」と言った先輩がいた。
私達医療者は常に誰かの命を奪う可能性があることを忘れてはいけない。そうならないためにも自分で正しい知識をもて。学ぶことを放棄するなら医療の現場には立つな。
いつもは優しい先輩がその時ばかりは厳しい口調で私を叱った。あの頃の私は田口さんほど素直ではなく、だったら看護師なんてやめると言って先輩を困らせたのは私の消したい黒歴史。
けれど、そんな過去があって今の私がいる。そして後輩たちの気持ちもわかってあげられる。
だからこそ今の私には、しなければならないことはたくさんある。
まずは、仕事がしやすい環境を整えよう。
私は手始めに、ナースステーション内の棚の整理を始めた。ここはいくらきれいにしても、すぐにぐちゃぐちゃになる。
何度かそれを繰り返してあきらめていたが、作業効率を上げるためにもどうにかしなければいけない。
使用頻度が高いものはより取りやすい位置に配置を工夫して、取り出した後にきちんと元の位置に戻せるようにと同じ色のラベルを張った。ひとりでコツコツとやっていたら、三日かかってしまった。