俺様外科医の極甘プロポーズ
「万由里、ありがとう」
「どういたしまして。でも、お礼なら森先生にいってくれる?」
「そうだな」
患者の手術を執刀してくれたのは、俺たちより五年先輩の森先生は優秀な外科医だ。若いながらチーフに昇格してT大を牽引している医者とっても過言ではないだろう。
「ねえ、これから飲みにいかない?」
「俺は遠慮するよ」
一刻も早く花村のところへ飛んでいきたい気持ちでいるとは言えず、万由里を納得させられる言い訳を探す。
「だって、この格好では出かけられないだろ。それに俺、財布持ってない」
ネイビーのスクラブに白衣を羽織った姿で外出は無理にきまっている。そんな俺に万由里は言った。
「お金心配しなくていいわ。壱也の私は、医局のロッカーに忘れていったのを残してあるの。長袖のシャツとデニムだったかな。それに着替えればいいんじゃない」
大学を出るときに荷物は全て片付けたはずだったのに運悪くそんなものが残っていたなんて。
「でも明日学会で、かえって準備しないとならないし」
「それは私も同じよ」
「ああ、そうか。そうだよな」
ほとんどの外科医が明日の学会に参加する。当然万由里もだ。
「いい、壱也。今後もこういうことがあると思うし、森先生にはちゃんと誠意を見せなさいよね」
誠意を見せろと言われてしまうと弱い。確かに今後も重症患者を受け入れてもらうこともあるだろうし、医局から外科医を派遣してもらっている手前、礼儀を知らない男のレッテルを張られるのは困る。
「……そうだよな」
すぐにでも飛んで帰りたい気持ちを抑えて、俺は万由里と森先生、それに研修医数名を誘って食事に出かけた。
タクシーすらなかなか捕まらないクリスマスの夜。万由里が父親の名前を出して店を予約してくれた。