俺様外科医の極甘プロポーズ
それから私は看護師向けの業務マニュアルを作り直すことにした。柏瀬病院のマニュアルは内容が古く時代に合っていないうえに、不完全だ。だから新人教育には使えないし、誰も見ることもなく、みんながオリジナルのやり方で仕事をしている。そんなことをしているから手伝おうと思っても途中からでは手が出しにくいし、日勤から夜勤に引き継ぐタイミングでミスが起る。
山田先生がいたころのようなのんびりムードのままだったら大した問題も起こらなかった。けれど、壱也先生に代わってからは、業務量が増えて、提供する医療がより高度化したために、重大なインシデントにつながるようなトラブルが大発生している。だから余計に壱也先生の監視の目が厳しくなり、これにおじけづいた田口さんは辞めたいと言い出したのだ。
そんな田口さんはむしろ正常で、こんな状況になってものほほんとマイペースに仕事を続けていられるお局様たちの方が問題だ。私は入職してから今まで、その人たちの顔をつぶさないようにと黙っていたのだけれど、そうはいっていられなくなった。このままでは死人が出る。これだけは避けたい。
仕事が終わってから空いているパソコンの前に陣取るとひたすら文字を打ち続けた。
壱也先生がやり始めた手術や治療に合わせて新たに作らなければならないマニュアルも数多くあって、思っていた以上に日数がかかりそうだ。本当はもっと前から必要性に気づいていたけれど、見て見ぬふりをしていた。そのツケがこのタイミングで自分の身に振りかかってくるとは思わなかった。
本来ならただのスタッフである私が率先してするべき仕事ではないけれど、自分しかできる人がいないのなら、やるしかないのだろう。
こうやって自分の時間を削って仕事をして、疲弊して前の病院を辞めたというのに、また同じことをしている。人の根本なんてそうそう変えられないものなのかもしれない。
「なんの業務で残っている」
その声にどきりとして、私はキーボードをたたく手を止めた。
壱也先生だ。