俺様外科医の極甘プロポーズ
「花村さん受け持ちでいい?」
「はい?」
「だから、緊急手術の患者さん」
それはつまり、壱也先生の患者さんということになる。
「……私じゃない人にお願いできますか。いま、重症度の高い患者さんばかり担当していて」
個人的な理由で仕事を選んだのはこれが始めて。いけないことだと知りながら、でも、そうするしかなかった。
「じゃあ、いいわ。壱也先生の担当患者を受け持ちたい子たくさんいるしね」
「すみません。よろしくお願いします」
いつまでも逃げられるわけじゃないのはわかっている。だけど、いまは先生と関わりたくない。
こうして先生を避ける日々が始まった。
「ねえ、田口さん。この書類、壱也先生に渡してくれない?」
「いいですよ!」
「ありがとう。ごめんね」
「先輩、気にしないでください。壱也先生がらみの仕事なら、なんでもやらせていただきます!」
田口さんは以前にも増して壱也先生に熱を上げている。
田口さんだけじゃない。先生に女医の婚約者がいるということを知らない他の同僚たちも壱也先生のことが好きだ。彼女の座を狙っている子も多い。
おかげで壱也先生にかかわる仕事はやらなくて済んだ。それなのに壱也先生は私を見つけては話しかけてくる。
「りさ、話したいんだ。今夜時間をつくれないか?」
「仕事の話ならここでどうぞ」
「そうじゃないよ」
「じゃあ、話すことは何もありません」
避けて避けて、逃げて逃げて、このままどうにか毎日を過ごしていれば時間が傷を癒してくれるはずだ。
そして大晦日。
私は年越し夜勤だった。当直の先生は壱也先生じゃない。それを知っていて志願した。
元日から仕事に出る壱也先生を避けるために年明けから三日ほど休みをもらった。
表向きは実家に帰るため。その理由なら無条件で連休をくれた。
独身の同僚は、世間が休みの時に働いて、平日に正月休みを取る。だから誰にも迷惑がかかることもなかった。