俺様外科医の極甘プロポーズ

ある日の夕方、仕事を終えた私は私服に着替えて通用口へと向かった。そこで意外な人物と鉢合わせする。

 みれば、先生の婚約者である大手万由里がそこにいた。

グレーのパンツスーツに黒いピンヒール。長い髪はひとつにまとめられている。シンプルな服装なのにも関わらず、女の魅力をこれでもかと感じさせるのは彼女自身がとても魅力的な人だからだろう。

壱也先生が好きになるのもうなずける。

 会釈だけして通り過ぎようとすると、いきなり腕をつかまれた。

「ねえ! あなたこの前ここで会わなかった?」

「ああ、はい」

 私は小さくうなずいた。すると大手万由里は嬉しそうにこういった。

「私、明日からここで働くの」

「働く?」

「そう。堂島君の代わりにね」

 堂島先生はこの間の緊急手術の件ですっかり自信を無くしてしまいしばらく休んでいた。

復帰の見込みがなかなか立たず、代わりの医師が来るかもしれないという話は聞いていた。その代理の医師がこの人だなんて。

「壱也先生に頼まれたんですか?」

「違うわ。自分で志願したの。堂島君って、うちの医局員なのよ。だから彼の代わりに誰かが柏瀬病院に行かないと、って話になっていたのよね」

 そうだった。堂島先生はT大の外科の医局に籍を置き、柏瀬病院に派遣されてきている。

堂島先生の復帰が見込めないのなら別の医師をよこしてほしいと言ってくれ、そう事務長が壱也先生に訴えていたのをナースステーションで見かけた。

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