俺様外科医の極甘プロポーズ
私は大手先生を連れて院内を回った。
「ここがオペ室です。反対側が今年開設されたICU。ベッド数は5床。エレベーターホールを挟んで外科病棟があります」
大手先生はうなずきながら私の話を聞いている。
「じゃあ、私が働くのはこのフロアね」
「そうですね」
「少しレトロだけどコンパクトで動線もいい。とてもいい病院だわ」
先生は大きな瞳を輝かせながら言った。とてもポジティブな考え方をする人なのかもしれない。古いとか、小さいとか、文句を言うような嫌な女であったほしかった。美人で医者で、性格もいいなんてどう頑張っても私に勝ち目なんてない。
「そういえばあなたは何科のナースなの? 名前もまだ聞いてなかったわよね。教えて!」
「……花村です。花村りさ。外科病棟で働いています」
「りさは外科のナースなのね! よかった。あなたみたいに親切な人がいてれると私も心強いわ」
「親切だなんて、そんな……」
そんなことを言わないでほしい。
壱也先生の不貞を告げ口しようとしてるのに、大手万由里がいい人であればあるほど、言えなくなるじゃないか。
「謙遜しないで。私はそんなあなたのことが好きよ。ねえ、この後用事ある? なければどこかで食事しない? もちろんごちそうさせてもらうわ」
断るタイミングを失った私は大手先生に連れられて有名なフレンチレストランに来てしまった。
「ここ、とってもおいしいのよ」
おいしいにきまっている。有名ガイドブック常連の三ツ星レストランだ。
「よくいらっしゃるんですか?」
「父がここのオーナーと仲がいいの。店にはあまり来ないけど、シェフを呼ぶことはよくあるかな」
「ご自宅にですか?」
「そうよ。誰かの誕生日とか、パーティーの時とかね」
大手先生はさらりと言ったが、誕生日にシェフを呼ぶのも、パーティーを自宅で開くというのも普通じゃない。
「先生はお嬢様なんですね」
私の言葉に先生はきょとんとした顔になる。
「そうなのかしらね。よくわからないの。私は特別じゃないと思うけど?」
特別じゃないわけがない。お金持ちのお嬢様で、才色兼備で、欲しいものは何でも手に入る環境で、人をうらやんだり妬んだりしたことなんてないのだろう。
「先生は幸せな人ですね」
壱也先生に愛されて、とても幸せな人だ。