俺様外科医の極甘プロポーズ
私はひとりその輪を抜けて、仕事を始めた。入院予定の患者さんの部屋の準備をするために個室へと向かう。
ベッドネームをつけて、ナースコールのコードをきれいに整えるとカーテンを開けた。灰色の雲が空を追っている。
「私の心とおんなじだ」
この雲が晴れる日が来るのだろうか。
壱也先生とこうして職場で顔を合わせていると忘れたくても忘れられない。
そして今日からは大手先生がやってきて、いやでも二人が一緒にするところを見ることになる。それだけは耐えられそうにない。
壱也先生と別れて、私は自分がどれほど彼のことを好きだったかを思い知った。失ってはじめて気づくことがあるなんて思わなかったけれど。
「仕事辞めようかな」
「そんなことさせないよ」
その声に振り向くと壱也先生がたっていて、私を見つめていた。
「出て行ってください」
「いやだ」
「じゃあ、私が出ていきます」
「行かせないよ。話を聞いてほしいんだ」
「嫌です! 先生の話なんて聞きたくない!」
「いいから聞けよ!」
鬼気迫るような大声に、私はびくりと肩を震わせた。
そんな私の様子を見て、先生は「怖がらせててごめん」と頭を下げた。