俺様外科医の極甘プロポーズ

当直ではないからこんな時間に戻ってくることはないだろうと安心しきっていた。でもそうか。今日は夕方に緊急の手術があった。患者さんの状態は割と厳しい。もしかしたら先生はこのまま病院に泊まるつもりなのだろう。
 ふわりとせっけんが香った。当直室でシャワーを浴びたのかもしれない。

「すみません、マニュアルを……」

答えながら振り向くと、思った以上に近い位置に先生の顔があった。嫌な男だけど、いつみてもきれいな顔だ。髪はかすかに濡れていた。大きめのサイズのスクラブをきているからか、胸元に視線がいってしまう。私は目をそらすと事務的に答えた。

「看護業務のマニュアルを作っていました」

「マニュアル?」

 先生は私の手元にあったファイルをぺらぺらとめくった。

「残業してまでやることではないだろう」

 ごもっともなご意見だ。

「でも先生。これが完成すれは、みんな仕事がしやすくなりますだから早く作らないといけなくて……」

「だからなんだ。無駄な残業は認められない」

「……無駄じゃありません」

「問答無用だ!」

「そんな」

 怒りよりも悲しみが勝った。私のしようとしていることは先生にとって無駄でしかないのだろう。なにも言い返せなかった。

「わかりました。すぐに帰ります。もちろん、残業代はつけませんから安心してください」

 私は開いていた文書ファイルを閉じるとそそくさとナースステーションを出た。
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