俺様外科医の極甘プロポーズ
「とにかく私は見合いをしないためにも壱也と結婚したいの。医者を辞めなければならなくなるなんてありえないもの」
「医者を辞める? それはどういうことですか」
「両親の薦める見合い相手が私に求める条件なのよ。医者を辞めて家庭に入るなんて、私には無理。この仕事は私の生きがいなの」
苦悶の表情を浮かべる先生に私は言った。
「だったらそんなお見合いしなければいい」
「見合いをしない?」
先生は驚いたように目を見開いた。そしてほんの少しだけ考えるそぶりを見せてからゆっくりと首を横に振る。
「……いいえだめよ。そんなこと許されない」
先生はとてもいい子だったのだろう。親の言いつけをちゃんと守るような。素直でまじめで自由を知らない子供だったのだろう。大人になった今も、その呪縛から放たれることはなくて、こんなにも苦しんでいる。かわいそうな人。
「たとえ許されないとしても、結婚は自分のためにするべきです。大好きな人と」
「……大好きな人と」
「先生にはいますか? 大好きな人」
「いるわ」
「……冴島先生ですよね」
さっき壱也先生が言っていた。
「そうよ」
大きくうなずく大手先生の顔に恋する乙女の表情を見た。私は確信した。
「だったら、その人と結婚するべきです」
そう言い切った私に先生はまた表情を曇らせる。
「でも両親が今年中に結婚を……」
結婚しろと言われたからなんだというのだろう。親の言いなりになるために生まれてきたわけじゃないのに。
「先生!私は先生のおうちの事情は知りませんけど、子供の幸せを願わない親なんていないと思います」
「それは、そうね」
「だから先生は自分が幸せに生きる選択をしてもいいじゃないでしょうか。焦って好きかどうかもわからない人と結婚しても幸せにはなれません」
「……そうね。でももう別れたの」
「そんなことはどうでもいいんです。冴島先生に先生の思いを伝えてあげてください」
先生は「そうね」と何度も繰り返しながら私の話を聞いてくれた。