俺様外科医の極甘プロポーズ
「みんなをだますつもりはなかったのよ。本当にごめんなさい」
「いいんですよ、先生。変な虫がつかないようにってことですものね。まんまと騙されましたけど、悪い気はしないです」
田口さんは納得した様子でうなずいている。それを見ていたみんなも同様にうなずく。
私はほっと胸をなでおろしながら大手先生の方を見た。すると先生はパチンと片目をつむる。まったく吞気なものだ。
うまくごまかせたからいいけれど、話がこじれたらどうするつもりだったのだろう。
私は生ビールを飲み干すと携帯を見た。壱也先生はまだ姿を現さない。今日はオペもないはずなのに何をしているんだろう。
「壱也先生遅いですね。なにかあったんでしょうか?」
田口さんも心配している。もちろん私も同じ気持ちだ。
「本当に。どうしたんだろうね」
そろそろお開きというところで、ようやく壱也先生が現れた。手には花束がふたつある。
「遅れてすみません、来客がありまして。大手先生、お疲れさまでした」
壱也先生はそう言って花束を渡した。
「堂島先生は明日からよろしくお願いします」
そういって、ジャケットの胸ポケットから長方形の包みを出すと「ギフトカードです」と言って堂島先生に差し出す。
「ありがとうございます。先生」
みんなが拍手を送る中、先生は私の目の前に立つと両手で花束を差し出した。私は訳も分からずに、先生のことを見上げている。
「花村りささん」
「はい」
いきなりフルネームで呼ばれて、私は椅子から立ち上がった。そんな私を見て、壱也先生は微笑みを向けるとまっすぐな声で言った。
「僕と結婚してください」
「あ、あの」
もうだめだ。まったく思考が追い付かない。パニックになる私に先生は言った。
「りさ。返事は?」
「……よろしく、お願いします」
割れんばかりの拍手と、看護師たちの悲鳴にかき消されてそのあと先生がなんて言ったのかなんてわからなかった。