俺様外科医の極甘プロポーズ

「……院長。まさか、俺たちを試したんですか?」

「すまなかった。どうしても、壱也の本心を確かめたかったんだ。もし、院長の座に目がくらんで大切な誰かを傷つけるような男だったら、柏瀬病院は私の代で終わりにしようと思っていた。許してくれるか?」

 なんなんだ、その自己中心的な考え方は。結婚反対と見せかけて、俺の本音を探るなんて下衆なやり方だろう

「いいえ。許せません」

もういい本当に殴ってやろうか。こぶしに力を籠めると、花村の手が重なった。

「いいじゃない、壱也さん。院長先生は私たちを思ってああいったんだと思うの」

「りさがそういうなら」

どうやら院長は花村に感謝しなければならないようだ。

「先生、どうもありがとうございました」

深々と頭を下げる花村につられて俺も院長に頭を下げた。

「それで、結納はいつになるんだ? 結婚式は?」

 さつきとは打って変わって嬉しそうな顔でそう話す院長に俺はあえてそっけなく答える。

「それはまだ、考えていません。それに、次年度の病院運営の企画も進めていかないとなりませんし」

黒字回復確実とは思われるが、今後どう維持継続していくのかが大切だ。

次年度こそ踏ん張りどころだと思うから、浮かれてばかりはいられない。もしかしたら結婚式は来年以降になるかもしれない。それはまだ、花村には話していないけれど。

「そうか。よろしく頼むよ。とにかく、いろいろと物入りだろうから……」

院長は机の引き出しから小切手を取り出すと万年筆で金額を書き足した。

「私からの婚約祝いだ。安心しろ、正真正銘ポケットマネーだからな」

 差し出されたそれを受け取ることを躊躇していると、院長は俺の手に小切手を濁らせた。

「受け取ってくれ」

「ありがとうございます。院長」

 そこには壱千萬円と書いてあった。この人にとっては大した額ではないのかもしれない。

「なあ、壱也」

「なんですか?」

「結婚式の時は、院長ではなく父親として祝わせてくれないか?」

 拒み続けることは簡単だ。母親を傷つけた男として恨むこともしかり。だけど今日、院長は院長なりに苦しんできたのだということを知り、俺は彼の過ちを赦そうと思えた。

「もちろんです」

……お父さん。

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