俺様外科医の極甘プロポーズ
この間、看護学校時代の友達が1LDKのマンションを買ったと言っていた。
三十五年ローンらしい。
六十二歳まで払い続けるのだ。還暦を迎えた自分というのが全く想像がつかない。三十五年という年月は恐ろしく長い。私はまだ賃貸でいい。実家に帰るかもしれないし。
このまま東京に残るかもしれないのだけれど、どちらにしても、看護師でいる限りひとりでもどうにか暮らしていけるお給料はもらえる。
今はただ、こつこつとお金をためようと思うそしてもしもの時は老人専用のマンションに入るのも悪くない。毎日栄養管理されたご飯を食べて、施設のレクレーションに参加しながら楽しく過ごすの。そんな人生も悪くないでしょ。
「ハイボールお替りお願いします。濃い目で!」
一杯だけのつもりが、気づけばもう五杯目。さすがに酔いが回ってきた。
「そろそろ帰ろうかな」
私はお会計を済ませると、お店を出る。
つい最近咲き始めたと思っていた桜の木には緑の葉っぱが生い茂っている。時がたつのはなんて早いんだろう。最近は時にそう思う。看護師として七年目の春ももう終わろうとしているのだ。通いなれた道を千鳥足で歩き、終電間際の電車に乗り込んで自宅アパートまで帰った。
「ただいま」
今日みたいな日は、だれかに「お帰りなさい」と言ってもらいたくなる。独り身のつらさはこんな時に感じるものなのだろう。
手探りで電気をつけると靴を脱ぎ棄ててベッドにダイブする。メイクはしっかり落とさないとお肌が荒れてしまう。そんなことはわかりきっていても、睡魔には勝てそうにない。もぞもぞと薄手のコートを脱いで、私は毛布にくるまった。