俺様外科医の極甘プロポーズ
9.先生の裏切り
「今日から内科病棟に入配属になりました花村です」
私は四月から内科病棟に異動した。
婚約を公にしたからといって仕事は何も変わりはしないのだけれど、私たちの関係を面白く思っていない同僚も少なからずいたのは確かだった。
以前のトラブルも加味して、余計な軋轢を生むなら別の職場がいいんではないかという壱也先生の意見と内科の看護も経験したいという私の思いが相成って今回の異動が決まったのだ。
「新卒から外科しか経験がなくて、新たに勉強しなくてはならないことがたくさんありますが早く仕事を覚えて頑張ります」
内科病棟は外科とは比べ物にならないほど、のんびりとした時間が流れている。
慢性期疾患の患者さんが多くて急を要するような治療や処置があまりないこともあるけれど、壱也先生が起こした病院改革の影響があまりないのは内科医である晴也先生が管理しているからではないだろうか。
「これはこれは、花村さんじゃないですか」
「晴也先生。おはようございます」
「おはよう」
「今日から異動してまいりました」
「そうですか」
患者さんに向けるような営業スマイルで私に近寄るとそっと右手を差し出した。
握手を求められて断るわけにはいかない。私は遠慮がちにその手を握る。
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。困ったことがあればいつでも僕に行ってください」
「はい」
「師長にもよくいっておきますから安心しなさい」
「ありがとうございます」
おかしい。晴也先生が優しい。私はてっきりいびられるものと覚悟を決めていたこともあり、かなり拍子抜けしてしまった。