俺様外科医の極甘プロポーズ
「おいしいよ。りさはたべないの? ほら、口開けて!」
壱也先生は春巻きを私の口元に差し出す。
「でも先生、みんな見てますし」
「そんなの気にするな」
先生は気にならないのかもしれないけれど、私は気にする。
感じる視線は興味本位のまなざしだけではない。
いわゆる嫉妬だけならまだいい。結婚するまではまだチャンスがあると言わんばかりに壱也先生を奪おうとする看護師もいるのだ。そんな鋭い視線を壱也先生は感じていないのだろうか。
「見られて悪いことはしないないだろう。今は休憩時間だし、仕事に影響はない。そもそも俺たちは婚約者なんだから何の問題もない」
先生は変わった。こんなことを言う人じゃなかった。風紀が乱れるとかいって規制する側の人間だったはずだ。決して悪い変化ではないのだけれど、私は戸惑いを隠せない。
「ほらはやく。……だめ?」
上目づかいで拗ねたように言う。そんな顔で言われると断れない私がいる。
「だめじゃないですけど……じゃあ、ひとくちだけですよ?」
根負けした私は小さく口を開いた。
「それじゃ入らないよ。もっと大きな口を開けてくれないと困るよ」
先生は不満げに言う。どうしても食べさせたいらしい。
「こうですか?」
私は恥を捨てて大きく口を開けた。するとそこへ先生が春巻きを私の口の中に入れる。
「りさ、おいしい?」
「はい。自分でいうのもなんですが、おいしいです」
冷めてもおいしく食べられるように工夫を凝らした春巻きだもの。おいしくないはずがない。
「ほんと、おいしいよな。俺は幸せだよ。りさのおいしいお弁当をいつでも食べられるんだから」
満足そうに微笑みながら先生は言った。その顔を見ているとすべて許せてしまうんだから私も先生の愛に相当溺れているのかもしれない。