俺様外科医の極甘プロポーズ
「……矢部さん」

 完全に怒らせてしまった。私は小さくため息を吐く。治療の妨げになってはいけないと思って言ったことだったけれど、私の思いは矢部さんには伝わらなかったみたいだ。

このまま出ていくわけにもいかず、しゃがんでお菓子を拾いはじめると、病室のドアが開いた。私ははっとして顔を上げる。

「吉野師長!」

 きっと騒ぎを聞きつけてきてくれたのだろう。

「あのですね、じつは矢部さんのベッドサイドに……」

 経緯を話そうとすると、吉野師長は人差し指を唇にあてた。そして声を出さずに「あとでね」と口を動かしてみせる。私はこくりとうなずく。

「矢部さん、吉野です」

「師長か。俺はもう退院するよ」

「そんなことおっしゃらないでください。この度は、スタッフの対応に失礼があったようで大変申し訳ございませんでした。きちんと指導いたしますのでどうかお許しいただけないでしょうか?」

そう師長が優しく声をかけると矢部さんは布団から顔半分だけ出して私をにらんだ。

「あんたがそう言うなら許すけど、その看護師は俺につけないでくれる?」

「はい。そのようにいたします。しばらくは私が担当させていただきますのでどうか治療に専念してください」

「わかったよ」

「そうですか、ありがとうございます。それでは矢部さん、また参りますので少しお休みください。失礼いたします」

 吉野師長に続いて私も矢部さんに頭を下げた。

「……失礼します」

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