俺様外科医の極甘プロポーズ

 ナースステーションに戻ると、私は矢部さんのお菓子の件を報告する。でも師長は矢部さんを否定することはなかった。

「矢部さんなりに努力しているの。仕事が忙しくて治療に前向きになってくれなくて、入院してきただけでも進歩なの。だからお菓子を見つけてからって、鬼の首を取ったように騒いだりしたらダメ」

「どうしてですか? あれじゃあ、いつになっても血糖値のコントロールはできませんよね!」

 結果が現れなければ、何のための入院なのかわからないじゃないか。

「花村さん。治療のゴールは人それぞれ。ここは外科病棟じゃないの。術後の患者さんの傷みたいに、目に見えてよくなるものばかりじゃない」

「それはわかっているつもりです」

 外科と内科は違うって、頭ではわかっていたはずだ。

「特にⅡ型の糖尿病は長年の生活習慣を見直して、少しずつ病気と向き合っていかなければならない人が多いわ。すぐに結果を求めたりしない、根気のいる看護が求められるの。あなたはそれを学びに来たんじゃないの?」

 吉野師長の言葉が私の心に突き刺さる。自分の未熟さが露呈して恥ずかしさで泣きそうになった。

「申し訳ございませんでした」

「謝るなら矢部さんと、主治医の晴也先生になさい。吉野さんの入院を説得したのは先生なのよ。今回は私から報告させてもらうけど、あなたから伝えたいことはない?」

「……特にありません」

 異動初日の失態に、私はすっかり自信を無くしていた。

看護師としては中堅になり、何でもできそうな気がしていたけれど、まったくそうじゃなかった。

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