俺様外科医の極甘プロポーズ
私はそれを手に取るとぱらぱらとめくった。中身は作ろうとしていたものよりも詳しくて、そしてとてもわかりやすかった。それだけじゃない。
外科以外のすべての看護業務を網羅している。悔しい。けれど、完璧だ。
このマニュアルを使わない手はない。これでみんなが仕事のやり方がわからずに右往左往しないですむ。
私はナースステーションの奥でシフト表を作っていた師長に声をかけた。
「お疲れ様です」
「お疲れ様。花村さん」
にこりと師長は笑った。私はこの笑顔が大好きだ。人柄の良さはピカイチでお母さんのような温かさが人気だ。いつも私の愚痴を嫌な顔ひとつせずに聞いてくれる。
「あの師長! このマニュアルはとてもいいものなので活用してみませんか」
「もしいいものだったとしても、誰も見ないわよ。そういう習慣がないもの」
私は師長の言葉に肩を落とす。そうだった。自己流でなんとなく仕事をしてきたここの病院の看護師たちにまずはマニュアルを基本に仕事をするという考えは染みついていない。
「でもこれをベースに仕事をするとミスも少なくなりますよ。ほらここに必要物品も注意事項もやり方も書いてあるじゃないですか!」
「へえーほんとだねー」
気のない返事に私は一抹の不安を覚える。
もう少しスタッフ教育や業務改善に意欲を見せないと、師長は師長でいられなくなるかもしれない。外来では新しい入職者が管理職になるという噂が流れている。壱也先生の魔の手はみんなの背後に忍び寄っているのだから。
「それより花村さんはどうしてこんなに早く出勤してきたの?」
「えーと」
マニュアル作成の作業のために出勤したはずだった。でも、もうやることがなくなってしまった。
「なんでしたっけね。時間まで休んでます」
アハハと笑ってごまかして、私は控室へ入る。