俺様外科医の極甘プロポーズ
中から飛び出してきたのはバスローブ姿の花村だった。
俺は彼女を抱きしめると、その腕に力を籠める。こんな姿で出てくるなんてとまさか、俺は希望を込めて、無事かと尋ねる。すると、小さくうなずいてくれた。
俺は心の底から安堵した。よかった。間に合った。けれどもし、あと数分遅かったらどうなっていたかわからない。
なんども俺に謝る花村をなだめながら、部屋の奥から姿を現した副院長をにらみつける。
俺を見て心底驚いたような顔をしている。そんな間抜けなタヌキ顔を殴ってやりたくなった。
「ボコボコになるまで殴ってやりたいが、それだけはしないと情報提供者と約束をした」
吉野師長は言った。副院長がしようとしていることは許されることではないけれど、彼は今正常な精神状態ではない。
俺が着任して立場を追われて、自暴自棄になっていると。彼をこれ以上追い詰めないでほしいと、そう懇願された。
俺は間違ったことをした覚えはない。けれど、副院長側の人間は俺のことを悪い人間にしか見えていないのだろう。
すべての人間のヒーローでいることなんてできるはずがないのだ。
副院長は怒りに任せて壁を蹴った。おびえる花村をなだめながら、俺はこういった。
「ぐだぐだ言ってないで今すぐここから出ていけ!」
「くそ!」
副院長は吐き捨てるように言うと、部屋の中に戻り荷物を持って出てきた。
お互いに言葉を交わすことはなかった。廊下の闇に溶けていくその背中を見つめながら、俺は花村に声をかける。
「……りさ、もう大丈夫だよ。やつはもういない」
おそるおそる顔を上げた彼女に部屋に入れるかと聞いた。
わざわざ確かめたのは、フラッシュバックを起こすかもしれないと思ったからだ。けれど花村は大丈夫だといった。
「りさ。本当に何もされてない?」
恐る恐るそう尋ねる。うなずく彼女を見て、俺は思わず熱いものがこみあげる。
「怖かっただろう」
俺以外の男が彼女に触れたと思うと、胸の奥がチリチリと焼けるように痛んだ。
そして、彼女を守れなかった自分の不甲斐なさを呪った。そしてこう思った。結婚をもう待つことなんてできない。