俺様外科医の極甘プロポーズ
10.先生の花嫁
「あなたに内科病棟の師長になってもらいたいの」
休み明け、看護部長室に呼び出された私は突然こういわれた。田口さんから聞かされてはいたけれど、半分以上冗談だと思っていたしやはり驚きは隠せなかった。
「大変光栄なお話ですが、私にはまだ荷が重すぎます。私よりも内科の経験がある看護師はたくさんいるじゃないですか」
吉野師長も十分若い師長だったけれど、彼女は長年内科で働いてきたキャリアがある。でも、私にはない。そもそも、先輩方を差し置いて師長にだなんてなれるわけがない。
「そうね。それでも私はあなたにやってもらいたいの。あなたのように伸びしろのある看護師は若いころから苦労をした方がいいのよ」
「そう評価していただいてとてもうれしいです。ですが部長、返事は明日まで待ってもらえないでしょうか?」
壱也先生とも相談して決めたい。
「わかりました。いい返事をきたいしているわ」
「はい。……では、業務に戻ります」
部長室を出て病棟へ戻る途中で壱也先生とすれ違った。先生は隣にいた先生と話をしていたので会釈だけして通りすぎた。
でも、なんだか後ろ髪惹かれる思いで振り返ると、壱也先生もこちらを見ていた。そして連れの先生を先に行かせて私のところにかけてきてくれる。
「お疲れさん」
「お疲れ様です。よかったんですか?」
「なにが?」
「なにって、先生と話の途中だったのでは?」
「俺にとって大切なものなんてりさ以外にはないよ」
思わず赤面してしまうようなセリフを面と向かって言われて、私は戸惑いを隠せない。そんな私を見て壱也先生はからかう。
「照れるりさもかわいいよ」
「もう、先生の意地悪」
「意地悪もしたくなるさ。……ああそうだ。今日仕事終わったら一緒に帰れるかな?」
「はい。私もそうしたいなって思ってたところです」
お酒を飲みながらでも、師長になる話を相談をしたかった。
「ほんとう? 奇遇だね。うれしいよ」
「私もうれしいです」
以心伝心みたいでうれしい。
「じゃあ、十八時に。通用口で待ってる」
先生はそういうと手を振りながら踵を返した。白衣のすそが翻るのを見るといつも、ほれぼれする。
見慣れているはずの白衣でも、壱也先生が着ると魅力的に見えるのはどうしてだろう。
私は先生の背中を見えなくなるまで見送った。