俺様外科医の極甘プロポーズ

「でも、結婚は来年以降だって言っていたじゃないですか?」

 病院再建のめどがついて、軌道に乗るまでは結婚はしないと言っていたはずだ。それがどうして。

「なにが不都合でもあるの?」

「……それは」

 あんなに素敵なプロポーズをしてもらった後で、仕事で責任のある立場にあるかもしれないから結婚は待ってほしい、だなんて言えない。

「りさ?」

「ごめんなさい、先生……」

「ちょっとまって、ごめんってどういうことだよ!」

 取り乱す先生に私は今日、部長から言われた話を打ち明けた。


「なんだそんなこと。なればいいじゃないか、師長に」

 先生はあっけらかんとそう言った。

「でも、師長になんてなったら家庭のことがおろそかになってしまうと思います」

 管理職になれば、定時で上がることも少なくなる。スタッフのフォローで休日出勤も多くなる。研修にも出なければならなくなるし、責任も重くなる。

「それは心外だな。結婚したからって家事を全部やれとは言わないし、それが妻の務めとも思わない。むしろ大変な時期だからこそ結婚して協力し合えばいいと思うけど、りさはそう思わないの?」

「大変な時だからこそ?」

「ああそうだよ。よく言うだろ。結婚したら喜びは二倍、苦労は半分」

「そうですね」

 先生の言うとおりだ。どうして私は大変なことをひとりでしょい込もうとしていたのだろう。

「俺を頼れ」

「はい!」

「じゃあ、ここにサインして。俺はりさを離したくないんだよ。だから、法的にも縛り付けたいんだ」

 そんなことを言いながら、先生は誰よりも優しくて理解のある旦那様になるに違いない。

「ただ、結婚式こそ来年以降になるだろうけれど、それでもいい?」

「もちろんです」

私はその日、柏瀬りさになった。

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