俺様外科医の極甘プロポーズ
この出来事をどうしても誰かに話したかった私は、ラウンドから戻ってきた先輩看護師を捕まえた。今夜の病棟はとても平和だ。
壱也先生の患者さんはまだ予断を許さない状態ではあるが、峠を越え回復へと向かっている。私たちは
眠気覚ましのおしゃべりに花を咲かせる。
「もうほんと、目が合ってしまった時は生きた心地がしなかったですよ」
「私ならあいつがいた瞬間に速攻で控室を出るけどね。同じ部屋の空気吸いたくない。性格悪いしさー、女癖も悪いって噂だよ。もしかしたら変な性癖でもあるんじゃないの? だから医者で顔もいいのに独身なんじゃない」
先輩は思い切り顔をしかめる。よほど嫌いらしい。
「……そうなんですかね」
私は苦笑いする。こんなひどい噂を立てられてしまう本人にも問題がある。
だって、壱也先生は着任して以降、自分の意にそぐわない人間の首を次々と飛ばし、みんなから忌み嫌われる存在になってしまった。いくら仕事ができても、優秀な外科医でも、それだけではだめなんだ。
やがて先生には死神というあだ名がついた。それを聞いたとき、私は思わず飲んでいたお茶を吹きだした。
「死神⁉ いったい誰がそんなあだ名付けたの?」
「さあ。誰なんだろ。でもみんな言ってますよ。絶妙なネーミングだと思いませんか?」
大きなカマでみんなの首を切っていくそんなイメージなんだろう。言いたいことはわかるけれど、病院で死を連想させる言葉を安易に口に出すのはいかがなものか。
「もっとましなあだ名はなかったの?」
「まし? そんなのあるわけないじゃないですか。あいつにピッタリ」
昼時の休憩室でお弁当をつつきながら、田口さんはケラケラと笑っている。
あれほどイケメンだといって目をハートにしていたのに壱也先生のファンはもうこの病院にはいなくなってしまったのかもしれない。