俺様外科医の極甘プロポーズ
「それはないと思うよ」

 春のボーナスなんて、業績のいい黒字の病院くらいしか出ない。

「先輩は夢がありませんね」

田口さんは肩をすくめた。確かに夢がないかもしれない。しかし、現実はそう甘くない。

 予定時刻の五分前なると会議室に院長が姿を現した。そのあとに、副院長の晴也先生が続く。さらに見慣れない顔がもうひとり。白衣を着ているところを見ると、医者だろうか。
院長がマイクを持つとみんなは無駄話をやめた。

「みなさんおはようございます。今日集まってもらったのは、ほかでもない。本日から息子の壱也がわが柏瀬病院で働くことになった」

 院長は嬉しそうに言いながら目配せをする。すると“息子の壱也”と紹介された先生が一歩前に出た。

やせ型の長身で、モデルか俳優かといっても通用するくらい整った顔をしている。

小さな顔に品よく配置された切れ長の目と高い鼻。キュッと口角の上がった口元は、どこか挑発的で自信に満ち溢れているようにさえ見える。

院長は息子といったけれど、院長にも晴也先生にも全く似ていない。だって二人はタヌキ顔。院長に至っては体型もタヌキだ。

「本日よりこちらの病院で勤務することになりました。柏瀬壱也です。T大病院で消化器外科医として働いていました」

すごくよく通る声でそういった。顔がいいと声までいいのだろうか。
それにT大といえば、国内最高峰の医療機関で、医局に在籍することができるのも選ばれた優秀な医師だけと聞く。彼は正真正銘のエリート外科医だ。
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