俺様外科医の極甘プロポーズ
「だめだ。そんな顔して、めそめそ泣かれる俺の身にもなれよ」

 先生は小さなため息を吐く。

「すみません。もう、泣いたりしませんから放っといてください」

 だからもう、開放して欲しかった。すると先生は「わかった」と言って、ぱっと手を放す。

「勝手にしろ」

 そう言われてまるで見放されたような感覚に襲われる。

これ以上構わないでほしいと自ら望んだはずなのに、どうしてこんな気持ちになるのだろう。

わからない。私はその場から動けなくなってしまった。

それからどれくらい時間がたったかわからない。おそらくはほんの数分だったのかもしれないけれど、私にはとても長い時間に感じられた。

「なあ、花村。本当は聞いてほしいんだろ?」

 まるで小さな子を諭すように、先生は言う。

「……はい。でもこれを話したら、私が楽になるだけで……」

「俺が傷つくとでも?」

「はい。 ……あ、いえ。その」

 しどろもどろの私見て先生は笑っていた。そして、「いいから話してみろ」と言った。

「でも……」

「でもじゃない。そこまで言っておいて黙っていられる方が気持ち悪い。お前が楽になるんだろ。だったらそれでいいじゃないか」

 私は壱也先生の気持ちに甘えて、今日あったことを話そうと思った。

言葉を選べば、きっとうまく伝えられるはずだ。

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