俺様外科医の極甘プロポーズ

「……そう、だったんですか」

「妊娠と同時に母は実家の高知に戻り俺を産んだ。院長は認知こそしなかったが、月五十万円の養育費は切らさなかった。感謝はしている。そう思えるのも、母は絶対に恨み言も泣き言も口にはしない人だったからだと思う」 

 ひとりで子供を育て上げるのは並大抵の努力ではないはずだ。先生の話によると、お母さんは先生が高校生の時になくなられたそうだ。その後は祖父母が親代わりだったという。

「立派なお母さまだったんですね」

同じ女性として尊敬する。けれど、先生はうんとは言ってくれない。

「そうだろうか。母が俺を生んだことで苦しんだ人もいるよ」

「苦しんだ人?」

 私は首をかしげる。先生が生まれて苦しむ人っていったい。

「正妻とその息子は俺の存在が疎ましい。それは今も変わらないだろうな」

「院長夫人と晴也先生ですか?」

「ああ、そうだ。俺は母の葬儀で父と初めて会って医者になることを条件に養子に入った。二人は猛反対したそうだよ。だから俺は認めてもらうために一流を目指した。けれどそれは逆効果だった」

「逆効果?」

「特に兄にとって、俺の存在は脅威だ。無能なら安心したのだろうけど、親父が認めれば認めるほど、兄は俺を憎む。そんなことあの頃の俺にはわからなかった」

なるほどだから晴也先生は、病棟のみんなにあんなひどいことを平気で吹き込めるんだ。


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