俺様外科医の極甘プロポーズ
「そんなの、酷すぎます!」

「仕方ないんだ。母は不倫相手であることには変わりはない。法律上許されないことだし、俺は存在してはいけない人間だ」

先生は嘲気味に笑った。その笑顔がなぜかとても悲しそう見えて、私の胸を震わせる。

「どうして仕方ないだなんて思えるんですか? 先生はなにも悪いことをしていないじゃないですか!」

 むしろ、先生は感謝されてしかるべき存在だ。頑張って勉強して医者になり、外科医としてたくさんの命を救っている。そしてなによりも柏瀬病院の再建に向けて、こんなにも頑張っている。

「同情してくれてるの?」

 先生は言った。

「そうじゃありません。悔しいんです。正しく生きている人が正当に評価されないことが許せないんです」

 私はこぶしを握った。自分でも理解できないほどの怒りがわいてきてあっという間に視界をにじませる。

「うん。ありがとう。ねえ、花村? 俺はいま、俺のために泣いてくれている君を抱きしめたいと思っているんだけど」

 先生は言いながら少し情けない顔をして、私に手を伸ばす。

ああそうか。あの足ではこの距離が届かないんだ。私はベッドの端に腰かけた。先生指先が私の頬をなでる。

「泣きすぎ」

「……すみません」

「いいよ。うれしいから」

 先生はそっと私を引き寄せて、その胸に抱きしめる。少し苦しい。でも、全然いやじゃない。むしろ心地よくてずっとこのままでいたいと思う。

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