俺様外科医の極甘プロポーズ
今まで俺は、心の底から人を好きになるということがなかった。けれど、俺のことを好きだと言って寄ってくる女はたくさんいた。
母親譲りの整った顔立ちは、男女問わず人目を惹いたし、勉強もそれなりにできた。身体能力も高く、スポーツも人並み以上にできた。だから教師からの評価も高かった。
おそらく学生時代の俺はヒエラルキーの頂点にいたのではないだろうか。
フリーでいると次々に言い寄られて困るので、恋人も作った。好きではなかったけれど、俺なりに大切には扱った。けれど、心がないことは必ず見透かされてしまうのだろう。数か月付き合って振られる、を幾度となく繰り返していた。
医者になってからは、同じ外科医と付き合った。彼女は帰国子女で、天真爛漫な性格。
勝ち気でなおかつ男には頼らない性格だ。お互いに好きという感情よりも仕事のパートナーとしての相性をいちばんに考えているような、そんな関係だった。
でも俺は、そこに居心地の良さを感じていた。いつしか彼女・大手万由里との結婚を考えるようになっていた。プロポーズらしきものもした。でも返事は保留にされた。
万由里の父親は医者上がりの代議士で、母親も医者。兄弟も親類縁者も医者か薬剤師という家系。
自分のパートナーに成り得る人間は医者でそれもエリートに限ると堂々と宣言していた。
彼女にとって俺は、家柄こそ落第点だったようだが、好みの顔だったのと将来有望というところが気に入ったのだと言っていた。
だから俺が実家の病院で働くことになったとき、彼女との関係は破綻した。
大学教授になる道を外れ、実家の病院を継ぐ立場でもない俺に興味がなくなったようだった。付き合いが続いていると思っていたのは俺だけだったようで、万由里が合コンや飲み会にちょくちょく参加していると同僚伝えに聞いた。
義務のように送りあっていた朝夕の挨拶メッセージはどちらともなくしなくなり、ついには途絶えてしまった。
所詮俺たちはこんなことで終わってしまうような関係だったのだろう。
そしてなにより驚いたのは、俺自身が彼女を失ったことに何の感情もわいてこなかったことだ。