俺様外科医の極甘プロポーズ
5.先生の大逆転
あれから私は職場に着くと、動悸を感じるようになっていた。
ロッカーを開けると、あるはずの白衣がないということもあった。おろしたてのナースシューズのひもがなぜかどこにもなかったり。外科病棟のナースステーションであいさつをしても、返事をくれるのは先生たちくらいだ。それはそれでとてもありがたいのだけれど、余計に同僚たちの反感を買うという悪循環に陥っている。
「あの子、男にだけは媚びるんだよね」
これまでの人生を振り返ってみても、私は可もなく不可もない生き方をしていたはずだ。
中流家庭に生まれて、高校までは公立で大学は医療系の看護学部に進んだ。友達も人並みにいてたまにはけんかもするけれど、仲良く過ごしてきたし、もちろんクラスメイトともうまくなじめていた。恋愛経験だけはなかったけれど、私はごくごく平均の女の子だったと思う。
社会人になってからは苦労がなかったかといえばうそになるけれど、大体は自分の力でコントロールできるものだった。
そんな私は今、人生のがけっぷちに立たされている。
「あの、私に申し送りを……」
夜勤明けの看護師にそう声をかけても、「カルテ読んでください」と目も合わさずに言われてしまう。確かに、カルテを読めば夜間帯の患者さんの状況くらいはわかるのかもしれないけれど、そこに書かれていない補足の情報や、諸注意くらいは口頭で申し送ってもらいたい。
でも、それを要求することは私にはできない。
発端は、壱也先生の復帰初日。
それ以降、避けられたり、嫌がらせをされたり、私物を隠されたりと陰湿ないじめを受けていた。