俺様外科医の極甘プロポーズ

「壱也先生は真の革命家ですね! 医者はもちろんのこと、つかえない看護師もどんどん辞めていただきましょう」
事務長は白い歯をむき出しにしてにやりと笑った。壱也先生は背中を向けているのでその表情を見て取ることはできないけれど、きっと笑っているに違いない。

「本日の会食ですが、十九時に迎えの車が参りますので正面玄関までいらしてください」

「わかった。くれぐれも、院長と副院長には知られてないようにしてくれよ」

「もちろんです」

どんな悪巧みをしようとしているのだろうか。突然やってきて好き勝手やっている二番目の息子を野放しにしている院長の気が知れない。しかしながら、家族のことは、私が口を出せる範疇ではない。とにかく私は看護師のみんなを守ることに専念しよう。これ以上退職者を出させるものか。

「気持ちはわかるけど、田口さん、辞めたらだめだよ。一緒に頑張ろう!」

 力なく丸まった田口さんの背中をたたいて気合を入れる。いつもなら落ち込んだと思ったら能天気に頑張りますという彼女だけれど、こんかいばかりはそうはいかないらしい。

「花村先輩は大学病院で働いていたことがあるからそんなことが言えるんですよ」

 そうだった。田口さんは看護の専門学校を卒業してすぐ、柏瀬病院に入職した。だから、全身麻酔で行われる侵襲性の高い術後の患者さんを看る機会も、生命の危機に直面しているような患者さんを救命する機会もなかったのだろう。

「あんな大きな手術をした患者さんなんて怖くてみれません。注射や点滴の量だってとても多いし」

 壱也先生は外科医と麻酔科医を雇い入れ、手術室のナースをそろえると胃がんや大腸がんの手術を始めた。比較的スタンダードな手術なのだけれど、経験のない田口さんにとっては脅威だろう。
のんびりとしていた病棟が一変し、急に患者さんの重症度が高くなってしまって、経験のある私だって体と頭をフル回転しながら仕事しているんだから、田口さんが混乱してしまうのは仕方がないことだ。

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