CYCLE(仮)
一章
私の名前はユキ。
最期の故郷の土と、
死後の骨から創られた。
生きても死んでもいない"モノ"。
何故私のような"モノ"を創ったのか、カルラに聞いても、彼はいつも嗄れた声で、『それが役目だったから』としか言わない。
後は殆ど黙ってるか、空の遥か向こうを見つめている。
まあ、彼は元々寡黙な人なのだけど。
いや、『人』と表現するのも少しおかしい。
何故なら彼には皮膚も、目も、肉も、内臓もーー何も付いていない。率直に言うと、そう、ガイコツ。
……私の頭がおかしいのではない。彼は本当に、そんな姿をしているのだ。
フォローをするわけではないが、ーー他のガイコツに会ったことは無いので比較の仕様がないがーー彼はとても穏やかで、精神性が高く、紳士的なガイコツということだけ言っておこう。
それに、これは私の個人的な意見だけれど、少し鈍く天然で、なんとなく哀愁の漂う表情や仕草が可愛いところもある。
ーーうん。私は彼のことが嫌いではない。
彼はいつも、黒いフード付のマントを羽織っていて、死者の魂を迎え、導く仕事をしている。
如何にもな"死神"だ。
そして、私の名付け親でもある。
「……君が死んだ日は、雪が降っていたから」
名前の由来を聞いた時、何かを思い出すようにゆっくりとそう言っていた。
もちろんその当時のことは何も覚えていない。
あるのは、死神見習いになった日からの記憶だけ。
私が創り出されたとき、目を開けると、そこにはカルラがいた。
「君に仕事を与える」
そう言われて、なんの抵抗も疑問もなく、私はカルラの元で働くようになった。
彼に創られたから、彼が親みたいなものだ。
私の見た目の性別は女で、土と骨だけで出来ているからか、肉体は冷たい。でも、それ以外は人間と何も変わらない。
感情も、人間ほど敏感ではなくてもちゃんとある。
ただし、この"仕事"をそつなくこなせるくらいの微弱なものではあるけれど。
死神見習いの仲間は知っているだけでも他に数人はいて、カルラが言うには、「もっともっと数え切れないほどたくさんいるよ」とのことらしい。
その全ての親がカルラだった。
でも、不思議なことに、聞いた話によると、数え切れないくらいの仲間はみんな、1日に何度もカルラと会っているそうだ。
まるでカルラは、同時期に至る所に存在できるみたいだ。
まあ、死神も「神」だから、不可能なんて殆ど無いのだろうけど。
ふと空を見上げると、無数の星が視界いっぱいに広がった。
そこには、私たちにだけ見える光がある。オーロラのような、薄っすらと輝く緑色の光。
それを私たちは"サイクル"と呼んでいる。
人間は死ぬと、魂だけになり、そのサイクルへと還って行く。それはやがて一つになり、また新たな生命に生まれ変わるのだ。
とても大切なことだ。魂たちは、そうやって自分たちを成長させてゆく。
その魂を無事に輪の中に届けるために、私たちが存在する。
私たちは、そのサイクルの中には戻らない。かれこれーー何十年だろう。私よりももっと長い間、死神をやっている者もいる。
私たちは、サイクルから外されたもの、はぐれ者なのだと、仲間が言っていた。
「俺たちはどうしようもない、落ちこぼれの魂なのさ」
そうやって自虐的に笑っていたが、彼の瞳の奥には哀しげな闇が篭っていた。
「だからあそこに還れない」
ーー彼は、還りたいと思ってるのだろうか。
私には分からなかった。還りたいと思う気持ちも、はぐれ者、と自分を卑下するその気持ちも。
だって、私たちはそういう"モノ"だ。
そこに疑問を抱くその気持ちすら、理解が出来なかった。