高校生夫婦はじめました。
親戚のうちの一人が何気なく放った言葉で、これまで解き明かそうともしてこなかった事実が一つわかってしまった。お父さんとの結婚は反対されていたらしい。
どうしてお母さんがその反対を押し切ってまで結婚したのかはわからないけど、そうまでして結婚したお父さんも、私が物心ついたときにはもういなかった。
お母さんはそれで、何かを得られたんだろうか?
「知佳の前でやめないか」
あけすけな会話を見かねた祖父が口を開いた。力関係ではこの祖父が一番強いようで、集まっていた親戚たちはぐっと黙り込む。室内が静まり返る。続いて、祖父は私に顔を向けて問いかけた。
「お前はどうしたい?」
――どうしたい?
選べる自由があるのなら、私は……。
とっさに願望を口にしそうになったけど、意味がないから思いとどまった。私が本当に欲しいものは、ココでは手に入らない。気心の知れた人たちと囲む食卓や、お母さんに一日の出来事を聞いてもらう幸せな時間は、もう手が届かないものになってしまった。
――仕方ないじゃない。
そう自分の心に呼び掛けて、自身を納得させようとする。――仕方ない。私はまだ子どもだから、大人の事情に従って、うまく波に乗れるように流されていくしかないんだし。
三つ指を突いて頭を下げた。いま生きていくのに一番必要なことは、徹底的に従順になることだと判断して、“どうしたい?”という祖父の問いに答える。
「どこへでも。家に置いていただけるなら、掃除も洗濯も一生懸命やります」