高校生夫婦はじめました。
「…………え?」
桁が……ものすごく多い。コンマが二つある。二つってことは……。
「…………七百万!?」
「子どもの頃に稼いだ分。母さんが全部置いといてくれた」
正臣は相変わらず表情を変えず、事実を淡々と告げた。
子どもの頃に稼いだ分、と言われて、そういえば正臣は、幼稚園の頃からモデルとかしてたな……と思い出した。中学校に上がる頃、正臣のお母さんが亡くなってからはやってなかったみたいだけど。
それにしても、七百万って……!
あまりに格差のある預金通帳を交互に見て、未だに信じられずにいる私。
正臣はしれっと言う。
「バイトだってするし、大学を出て働き始めるくらいまでは二人で暮らしていける。贅沢さえしなければ」
「……わぁっ」
諦めていたことが、急に鮮やかに色付いていった。
正臣はアテもなく「結婚する」と言ったわけじゃなかった。正臣と二人で大人になって、夫婦として生きていく。そんな夢物語が、もしかしたら夢物語じゃないのかもしれないと、期待で胸が熱くなる。
「やりくりできるか?」
「任せて!」
こうして、私は“時任知佳”になった。
母親を亡くして居場所をなくしたときに、幼馴染の男の子に嫁に取られるという形で。
――――そして物語は冒頭、私たちが夫婦になってから一週間が経った日に戻る。