高校生夫婦はじめました。
私は名字で呼ぶことさえも慣れないのに、正臣はごく自然なトーンの声を出す。日誌を私に手渡しながら。

「これ。先生が“日直に渡しといて”って」

ああ、それでか。びっくりしたなぁもう……。

私は少しギクシャクしながら、正臣から日誌を受け取る。

「ありがとう」

正臣が校内で私に話しかけてくるのは珍しいことだった。というか、私がそうお願いしたのだ。冷やかされるのが嫌だから。

正臣と私はご近所さんだったから校区も同じで、小中学校も一緒だった。小学生の頃、私は正臣が同じクラスにいることが嬉しくて彼にガンガン話しかけていた。それを周りがとやかく言うこともなかった。

だけど中学生になると、それまでと同じようにはいかなくなった。ちょうどその頃私は正臣の家で夕飯を食べるようになっていたので、家と同じ調子で彼に接していた。それがクラスの男子の目には特別な関係に映ったんだろう。「仲良すぎじゃねぇ?」とか、「夫婦! 夫婦!」とか、たくさん言われた。なんだかすごく嫌で、恥ずかしくて。学校では正臣と距離を置くようになった。その距離感は高校に進学してからも続いている。

だけど……。

(本当に夫婦になってしまった……)

あの時、中学生だった当時に冷やかしてきた男子だって、まさか正臣と私が本当に結婚するとは思ってもいなかっただろう。今「夫婦! 夫婦!」と冷やかされたなら、「いや、そうなんです実は……」と打ち明けて目を剥かせてやりたい。

(なんてね)

過去の出来事に頭の中で小さな報復をして、こっそりクスクス笑った。まだ目の前に立っていた正臣がそれを目敏く見つけて、不思議そうに首を傾げる。

「何かあった?」
「ううん、なんにも」
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