高校生夫婦はじめました。
気付けば自然に返事ができるようになっていた。夫婦関係を周囲に打ち明けようとは思わないけど、今までほど過剰に避けることもないのかもしれない。私たちも、周りも、ちょっとだけ大人になっているはずだし。
不意に、正臣が顔を近付けてきて、ボソッと小さな声で言った。
「――俺、今日委員会で帰り遅くなるから」
「え?」
突然詰められた距離と、まるで付き合っているような会話にドキッとする。付き合っているどころか結婚しているわけだけど。こっそり予定を伝えられることが、ムズ痒くて、嬉しい。
私はドキドキするあまり、ちょっとテンパりながら早口で返事をした。正臣と同じように小声で。
「あ、うん……ご飯つくって待ってるね」
口にしてからハタと気付いた。
(……私いま嫁っぽいこと言った……!)
正臣も同じことを思ったのか。はたまた、まったく違うことを考えているのか。彼はじっと私の顔を見つめてきた。廊下の真ん中でそうしていると段々恥ずかしくなってきて、耐えきれなくなったので私のほうから声をかける。
「……あの、時任くん……?」
日誌を手渡すだけの立ち話にしては長すぎる。これ以上二人で話していたら、誰かに怪しまれるかもしれない。
そろそろ私も次の教室に向かおうと思ったけど、正臣はなぜかシュンとしょげたような顔になっていた。ベースの表情がテンション低めなので、私にだけわかるくらいの、微妙な変化で。
(……落ち込んでる?)